在宅療養推進に向けた市民対象公開シンポジウムが11月14日旭川市内で行なわれました。
 在宅医療に取り組んでいる医師らでつくる旭川地区在宅ケアを育む会が主催、旭川市医師会、地域ケアネット旭川、あさひかわ緩和ケアネットワーク、そして地元のがん診療拠点病院である旭川医科大学病院、市立旭川病院、旭川厚生病院の3病院がそろって共催したものです。
 ほぼ会場を埋め尽くした市民は約200人。
 注目してほしいのは、公開シンポジウムのテーマです。「多職種で支える在宅療養―最期まで自分らしい生活をおくるために―」というものです。
 在宅療養と言われてもほとんどの市民はどんな形で支援されるのか、そもそも基本情報すら知らないのではないかという臨床現場の実感から企画されたものです。
 「一般的な啓蒙に終わらせたくない」という思いが多職種を全面に打ち出した中にあるように感じました。
 なぜなら多職種を全面に打ち出すことで、ほとんどの市民は聞いたこともないだろう退院前調整会議や退院調整スタッフの存在を知ることができるためです。
 患者・家族も一緒に会議に臨み、病院主治医や在宅医師、病棟看護師、訪問看護師、ケアマネージャーと話し合いを持ち、在宅療養生活について率直に不安感を伝えることもできること、また違う選択もできることを市民が知ることが医療介護関係者と患者・家族間の信頼関係を深くすることに通じるという関係者の思いが伝わってきます。

 公開シンポジウムは、「治る見込みがなくなったとしたら、どこでどのように生活しようと思いますか」という問いかけから始まりました。
 できれば自宅で療養したいという人は多い、しかし実現は難しいと思っている市民が多い現実を調査結果から示します。在宅を支えてくれる体制があるのかという疑問、急変時に対応してくれるのかという不安、家族の負担になるかもしれないという危惧がその理由です。
 「これがもし解決したとしたら」希望する終末期の療養の場として在宅を選択できる可能性も広がるのではないか。
「本日はその第一歩です」という投げかけに今回の企画実現に奔走した関係者の願いが凝縮されています。


独自のシナリオによる寸劇で
在宅選択場面を示す
 当日は、合間に解説をはさみつつ、二つの寸劇を通じて具体的に在宅選択に当たってのシチュエーションが示されました。
 関係者の討論で作成された独自のシナリオを、在宅医療に携わっている医師自ら患者役に扮するなど、演じるのも医師、看護師、ケアマネージャー、退院調整ナース、MSW、ケアマネージャーなど在宅療養に関係する人達ばかり。
 第一の場面では患者とその妻、病院主治医、看護師の面談が用意されました。患者と主治医の間の信頼関係と隠すことなく病気の正体を伝えてきた信頼関係の下で、病気の進行と余命が残り少ないことが伝えられていきます。
 その中で自宅で過ごしたいということが共有されるとともに、患者は妻の負担を心配し、妻は不安に思っている様子がうかがえるとともに、別の医師になることに抵抗を感じていることが参加者を含め受け止められます。
 そして第二の場面は関係者が集まっての退院前カンファレンスです。
 ここでの紹介は不要でしょう。より具体的に患者・家族が不安を抱く場面が出され、それぞれの関係者が応えていくことで、意識の共有と在宅療養生活支援の気持ちが紡ぎ出されていく過程が明らかにされます。

 それを受けたフロアーとのやりとりでは、実際に終末期を在宅でと考えたものの他の家族、親戚などの反対で実現することができなかった市民からの問いかけなどが出されました。
 また、医師の間からは最期を迎えるときの状態について伝えておく必要があるのではないかという提案も出されました。
 息を静かに引き取る前に咳鳴をすること、これは呼吸が苦しいことを意味しているわけではなく死を前にした兆候であることを、市民があらかじめ知っておくことが大切ではないかという臨床実感からの提案です。

 こうした率直な意見交換ががん診療拠点病院などを含め、実現に移された意味を大切にしたいと思うのです。
 もちろん在宅医療を担う医師はまだまだ限られているなど課題は残されています。しかし着実にがんに代表される在宅療養支援の地域的広がりが育まれていること、実は連携と役割分担、協同をキーワードとした人と人とのつながりを仲立ちとして育まれている事実を見ていきたいと強く感じました。