外観 長年赤字経営に苦しんでいた市立病院の指定管理者となり、2年目にしてほぼ黒字経営への転換の道筋をつけることができたと紹介すると、「夢物語ではないのか」と叱責を受けるでしょうか。
 空想でもなんでもなく現実の話です。舞台は、埼玉県飯能市。
 お茶や材木の送り出し先などで知られる同市ですが、市の財政を悩ませていた問題に市立病院の赤字経営問題がありました。経緯(いきさつ)は割愛しますが、飯能市で飯能靖和病院などを開設運営する医療法人靖和会(木川浩志理事長)が飯能市からの要請を受けて飯能市立病院の指定管理者となり、経営再生に取り組んだのは平成22年4月1日。新たに飯能市東吾野医療介護センター(古屋大典センター長)として再スタートさせています。
 初年度は病床を全て休床、外来診療だけのクリニックとして運営、昨年から19床の有床診療所と29床の小規模老人保健施設として入院・入所機能を再開させています。その結果、平成23年度決算の赤字を約2,600万円に圧縮することに成功しています。満員近い老人保健施設の入所率と、常時15人から17人程度に上る入院患者の受け入れ、通所リハビリの組み合わせが功を奏した結果です。
 実際には入所、入院患者の受け入れをスタートさせたのは年度途中から。年度当初から受け入れを開始していた場合、間違いなく黒字経営に転換することは確実でした。その結果が、市が計上していた指定管理料1億1980万円に対して約9300万円の返上に結実しています。これを受けて飯能市が「指定管理者の経営努力と厚意によるもの」として、返還のあった資金について基金を設置する措置を取ったことも特筆しておいてよい事実です。


病院から有診・小規模老健の組み合わせに転換
地域に溶け込みニーズ把握した産物が事実上の黒字転換
納涼祭2 飯能市は秩父地方に位置する埼玉西武地区の主要都市の一つです。とはいえ東吾野地区などは山あいに位置しており、マチとマチの間は途絶した形で西武秩父線の駅がつないでいるといったら地理的印象が伝わるでしょうか。
 注目してほしいのは、小規模公立病院の経営再生という場合、無床クリニックへの転換が一般的な中で、有床診療所の道を選択していること、さらに採算性が取れないと敬遠される小規模老人保健施設の組み合わせに病床変更している点です。もちろん地元が入院ベッドの継続を強く希望したことも理由の一つです。
 それ以上に本来、地域に入院・入所ニーズがありながら、うまくそれにリンクできていないため患者が流出していたのではないか、という判断がありました。そして今までの訪問看護ステーションによる訪問看護に加え、通所リハビリテーションをスタートさせ、地域内でリハビリも受けられることなどがうまく入所・入院サービスと組み合っていく結果につながっています。
 それを支えたものは、古屋センター長をはじめとするセンター職員の地域への溶け込みと、地域ニーズに対応したサービス提供への意識です。
 それを象徴するのが8月26日に同センターで行われた第2回納涼祭です。おそろいの法被に身を包んだセンター職員をはじめ地域の皆さんが参加、各種模擬店や日本舞踊、大正琴の演奏などが披露されるとともに地域あげての語らいの空間と笑顔が広がりました。
 木川理事長の挨拶が、そこに集った人々の思いを代弁しています。
 「このセンターは職員が一つひとつ地元の皆さまと一緒に作りあげていこうという思いでスタートしました。リハビリテーションのさらなる充実など地域の皆さんの希望を踏まえ、今後もより良いセンターを目指していきたい」。
 限られた人口数でありながらも地域に密着した医療介護ニーズを準備すれば経営そのものも成り立つことを教えてくれるという意味でも注目したい地域発信のニュースです。
 炎天下、私も皆さんとひと時を一緒に過ごさせていただきました。札幌から久しぶりに訪れた東吾野は確かに暑かった。
 それ以上に人と人、地域のつながりに力を得たことを私はこの先忘れることはないと思います。