「在宅医療専門医は個人主張が強く他を受け入れない」という「評価」が医療関係者の間に根深いと言ったら在宅医療専門医の先生方に叱責されるでしょうか。
 残念ながらこうした見方が少なからずあることは否めない事実だと思います。
 そうした中で、複数の在宅医療専門診療所を開設されている幾つかのグループが医師確保に苦心されているどころか研修希望医が集まってくるのを昨年目の当たりにしました。その中から新たなクリニックの担い手が誕生し、指導医として若い医師の研修指導にあたるという好循環を作り出しているのです。そればかりではなく看護職や看護学生の研修受け入れまで行っているといったら驚かれるでしょうか。恥ずかしながら私は良い意味で「あぜん」としました。いずれ具体的に取り上げたいと思いますが、埼玉県や千葉県、あるいは都内で起きている事態です。
 何が医師の集まる動因となっているのでしょうか。研修体験を経て在宅専門診療所の院長となった若手医師は、次のような報告をしています。
 この数年、より一層高齢化問題の深刻化を感じているとした上で、「高齢者のみならず約80名の小児患者の訪問診療を行っていること、気管切開、人工呼吸器、PEGなどの経管栄養の超重症児も多く、家族の高齢化と相まってこうした超重症児の在宅医療ニーズが年々高まっている」として、地域の病院と連携しながら、在宅継続可能となるよう取り組んでいる実態が報告されています。
地域の医療ニーズは
見えているのだろうか
 ここでは大きく二つ注目したいと思います。
 一つは地域のニーズを私たちは見えているでしょうかという問いかけです。
 二つ目には、在宅から地域との連携、ネットワークの大切さを体で感じている事実です。
 そして、やはり付け加えたいのは、増加する在宅医療の担い手を育てていくこととセットでなければ在宅医療は進まないのではないか、それは地域社会に対する当たり前の取り組みであるという意識です。2007年から携わる中で、「当時と比較して(わずか6年!)求められる医療水準ははるかに高くなってきている」という指摘にも耳を傾けたいと思います(地域医療研究会全国大会2013 in埼玉における医療法人財団はるたか会あおぞら診療所新松戸院長の遠藤光弘医師の発言)。
 在宅医療は利益性が高いとかということではなく、生身の地域の必要される医療に正面から向き合っていく、そのためにも地域との関係は欠かせないという実感と研修受け入れに対する法人全体の姿勢などが明らかに若い医師を中心に集まっていく動因となっていることは疑う余地がありません。当日、会場で挨拶させていただいた別の在宅医療専門診療所院長が千葉大学医学部の臨床教授を同時に務められていることは象徴的です。

 弊社は医師・薬剤師紹介を業務とするヒューマン・リソース事業部を有しており、その関係から足運びさせていただいた都内の在宅専門診療所もあります。東北地方にも展開されている医療法人ですが、ある都内の大規模団地を診療エリアに活動されている同診療所の事務長さんとの歓談は勉強になり実に楽しいものでした。地名は承知していましたが私自身初めて足運びする地域です。
 そこで教えられたのは、団地住民の高齢化と独居の増加であり、何かと注目されている柏団地(柏市)などと違いどちらかというと低所得層が多く、そうした地域事情の中で開設してから1年もたたない中で「在宅看取りを予想以上に担当させていただいている」というのです。その背景にあるのは自宅の生活環境までを受け止めた診療をしていこうとする姿勢であり、それを支える事務職のあり方です。
 残念ながら既存のクリニックが団地内にはあるのですが、訪問診療などはされていないといいます。年齢が高いこともあり、足運びまでできないことがあるのかもしれません。家族状態や生活環境の変化を知らない、あるいは知ろうとしていないのでしょうか、この点については口ごもられた事務長さんと話をしながら今、何が求められているのかあらためて考える機会を得ました。

 本年は、こうした新たな医療界の深部で始まっている動向や業務改善の工夫など、多彩な話題を取り上げていきたいと思っています。
 ご助言などいただければ幸いです。