1病棟だけで月額1千万円を超える減収。一夜にして収入が3分の2に激減してしまう。株価大暴落の話ではありません。この7月からケースミックス評価に移行する慢性期入院病院を直撃する問題です。
現在、『特殊疾患療養病棟入院料1』を算定している病院からいただいたデータによると、7月を境目に当該病棟から得られる診療報酬は、次のように変わります。
1日当たり病棟収入 | 1月当たり病棟収入 | |
現行 | 1,980点× 53人= 104,940点 |
104,940点×30日=31,482,000円 |
新規 |
1,740点× 5人= 8,700点 1,344点×41人=55,104点 764点× 7人= 5,348点 【合計】69,152点 69,152点×30日=20,745,600円 |
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月額でなんと1,073万6,400円もの減収
言うまでもなく、1,740点は『医療区分3』に分類される患者であり、1,344点は『医療区分2』かつ『ADL区分2』以上、764点は『医療区分1』かつ『ADL区分1』の患者であることを意味しています。
わずか1病棟で、月額収入が66%、3割以上下がってしまいます。年間では、1億2,883万6,800円の減収となる計算です。わずか1病棟だけで年間約1億3千万円のとんでもない減収になってしまいます。どうしてこんなことになってしまうのでしょうか。
適切な医療対応が低い医療区分を呼び起こす不思議
当該病棟の入院患者の7割以上は脳卒中後の遷延性意識障害患者です。ほとんどの入院患者が全くの臥床状態であり、『要介護5』を中心とする重介護状態。排痰などは自力では困難のため呼吸器感染症予防を目的に、昼夜にかかわらず頻回の吸引を必要としています。しかし、当該病棟では発熱者は数名で済んでいます。その理由は「全面介助を必要とする口腔ケアや胃食道逆流防止のための排便管理など、看護師による献身的な努力の積み重ねの結果」と病院長は説明しています。
また、褥瘡は殆どありません。褥瘡の予防・治療を医師・看護師が医学的見地から、しっかりとしたプランに基づき行い、エアマットの大量使用など予防医療に対するコスト負担を病院が積極的に受け入れている結果です。
体位交換などは看護補助者と看護師が協働で行っていますが「それは医学的な知識と技術に立脚した医療行為です」と病院長は強調します。この病棟では医師の回診が毎日行われており、必要に応じた早期検査と治療が重症化を予防しています。
そうした積極的で適切な医療対応で重症化を予防している取り組みが、低い医療区分を呼び起こすことになっています。これは今回のケースミックス評価が目の前の状態像に着目した設定となっている問題の反映です。それに診療報酬点数の大幅引き下げが重なった結果、一夜にして収入が3分の2になってしまうわけです。
『医療区分2』の患者が多いため、そう重くない患者の病棟ではないのかという疑問があるかも知れません。『準超重症者加算』算定者が53人中39人という実態が、当該病棟の医療必要度の高さを証明しています。
なお、IVHや人工呼吸器装着患者は『障害者施設等入院基本料』を算定する病棟で対応しています。2.5対1看護職員配置でなければ24時間管理が大変なためです。
医療は、診療報酬という名前の公定価格で収入が決まる世界です。市場原理で評価をすることに医療は馴染まないことを反映したものです。そうした世界に今回のような乱高下の激しい改定を持ち込むこと自体、問題とされなければなりません。
7月からのケースミックス評価導入を前に、医療区分の精緻化は急がれる課題です。また、重症化予防に熱心に取り組んでいる医療機関の多くが看護職員配置について4対1以上としていることから考えて、経営的打撃の激変緩和の意味も含めて、例えば『3.5対1看護職員加配加算』のようなものを設定する必要があるのではないでしょうか。実際、平成16年の調査時点で平均3.6対1看護職員配置となっていることが報告されています。
特殊疾患療養病棟入院量算定病院の具体的対応策の検討を有料会員制システム『メディウェル通信 クラヴィス』(メディウェル通信改題)4月5日号で取り上げます。ご期待ください。