2020年度診療報酬改定が1日から施行されました。
前回改定を踏襲し「時々入院、ほぼ在宅」という入院医療のあり方の積極的見直しを「疾患治療から生活機能の再構築支援」までを視野に入れた入院医療の意識転換と診療促進を著しい特徴としています。地域包括ケアネットワークの構築に向けてこの方向が逆戻りすることはありません。
疾患発症後、生活機能の再構築支援という発想は疾患治療に留まらず全身状態の超急性期での生活機能のスコア化を求める施設基準の拡大や新設に代表される診療、ケア、リハビリテーション、摂食嚥下、口腔ケアなどを一体的に取組む「診療機能の一体的提供体制」評価としてはっきりと表現されています。
一体の問題として入退院支援機能の日常的組織体制、さらには入退院を前後する在宅復帰支援に伴い「つなぎ」の連携機能評価が前回改定を引継ぎ強化拡充されています。
そうである以上「療養病床(病院)における機能転換、意識転換を支えるものは何か」が期待されるのではないでしょうか。
先に上げた「診療機能の一体的提供体制」という指標をみた時、必要なことは病棟における「多職種チーム医療提供体制の推進」支援と評価であることは論を待たないでしょう。
それを精神科領域の今回改定項目の一部を紹介することで証明したいと思います。
既に少なからぬ療養病床が
多職種による15対1医療職体制となっている
「多職種チーム医療提供体制の推進」理由として少なくとも二つのことを指摘できるのではないでしょうか。
一つは、少なからぬ療養病床(病院)が既に15対1以上の看護・介護職員配置となっている事実であり、数年前の日本慢性期医療協会の報告では介護職員を含めると7対1以上の体制となっている病院の存在すら明らかにされています。
医療区分と構成比率導入に伴う入院患者の重症化も背景としたその実態は、採算性を棚上げして損を被ってでも「必要なケア(医療)の提供」を行う医療機関の矜持を私は見ることが出来ると思います。
第二の理由は、あえて強調すると急性期病棟以上に病棟内でのリハビリテーション、栄養管理、口腔ケア等の提供が求められるためです。
急性期病棟ですと疾患別リハビリテーションの形で提供できる体制と評価が用意されています。
残念ながら療養病床はそうではありません。
離床や病棟内排泄ケアをはじめとするリハビリテーション、20分単位ではなく短時間から長時間の個別場面に即応したリハビリテーションを保証する体制こそが望まれます。それが保証されないところで「在宅復帰機能強化加算」など療養病床における在宅復帰率が問われることは間違いであり、問う側が問題であると言わざるを得ません。
当然、ここでは看護職など多職種とともに実行されることが期待できます。
その結果、退院後の訪問看護等で看護職による訪問の際、生活リハなど実生活に活かすことが出来るアドバイスが可能となるのではないでしょうか。
地方での生活性再獲得支援体制構築は急務
だからこそ常勤換算による復職支援が可能とする施設基準を
高齢化の進行と老老介護の進行が早まる地方だからこそ生活性再構築の体制整備は急務です。
体制整備の環境整備が伴わなければ地方が抱える問題に歯止めをかけることは極めて難しいのではないでしょうか。
だからこそ常勤換算とする人員配置基準の設計が大切だと思います。
そうすると復職支援などの形で地方にあっても人員確保の可能性が高まるとともに地域雇用の創出効果も期待できます。
地域包括ケアネットワークは当該地域でこそ基本的に作り上げていくべきだからです。自分たちの力で地域体制整備していけるという実体験の蓄積と機運作りにもつながるのではないか、私はそう考えています。
介護福祉士による院内デイケアなどの実施
排泄ケアの実施と状態変化が家族意識を変えていく
今から3年前北海道地域医療研究会で網走管内の小清水赤十字病院の中野看護部長からある事例研究報告がされました。
質疑応答時間を超えた発表の中身は「介護福祉士たちの実践報告と医療職としての受け止め」さらには「退院後の在宅療養支援を可能とする患者状態と意識の変化」、「それを目の当たりにする家族の意識変化」を道内各地の医療介護の担い手に伝えたい気持ちに満ち満ちたものでした。
病棟での排泄ケアの取組みは患者当事者に退院後生活の不安軽減と励みをもたらすとともに、院内デイケアを導入する事により病棟における生活場面が多様化され在宅生活への意識づけとなっています。
残念ながら家族の多くは「できれば入院していてほしい」という意識が多い。しかし、こうした対応が重なるにつれ「何かお父さんが変わってきている」という実感が家族に生まれ、そこに病棟で顔を合わせてきた看護職などが訪問する中で在宅生活の継続が少しずつ出来るようになって来ていることが紹介されていました。
ここに地域包括ケアネットワークの可能性が示唆されているのではないか、私はいまでもその時の実感を忘れることができません。
※中野看護部長による当日報告資料を添付しました。是非ともお目通しいただきたいと思います。
常勤換算による多様な勤務形態は
早出・遅出のリハシフトを可能とする
常勤換算とすることで例えば都市部ではリハビリテーションあるいは栄養管理、口腔ケア指導の生活時間に即した対応の可能性が育まれるようにも思います。
医療職配置基準と常勤換算基準の取り合わせで復職支援効果が期待できる中、例えばリハビリ職などのシフト勤務が可能となるかもしれません。
生活性とかけ離れた時間帯の入浴から生活により近い時間帯に近づけることで入浴時のリハから得られる情報(私の畏敬するリハビリの知人はゴールデンタイムと以前から指摘しています)はいろいろな課題と対策が明らかになってくるのではないでしょうか。生活時間に近づけていく体制整備支援のないところで在宅・居宅支援を語ることは出来ないでしょう。
常勤換算とすることで地方での人材確保が難しいMSWの配置と地域訪問の活動保証も可能となるのではないか。常勤体制が可能となればそれ自体の加算算定に移行すればよいでしょう。
2020年4月6日
株式会社メディウェル顧問 古川 俊弘