一昨年の新人離職率は11.1%。前年度は0%を実現――。
 5月21日から2日間、日本看護会館で行われた平成24年度第1回ワーク・ライフ・バランス(WLB)地域推進連絡協議会の席上、報告されたケースです(具体的病院名は割愛します)。
 どの病院も看護職の定着と確保対策に頭を悩ませています。
 ではどこから手をつけると良いのか、実は手をこまねいているというのが実情ではないでしょうか。
 その中で短時間正職員制度とともに注目されている考えの一つにWLBがあります。
 とはいえWLBといえば子育て支援と考えられたり、経費増を招かないかなど漠とした先入観などから、本来最も熟知していて不思議ではない事務職部門、というより経営管理職こそ知識も情報も持ち合わせていないケースが大半かと思われます。
 ここで紹介する試みは、そうした経営管理職の誤解や懸念を払拭させ、検討させる意味を感じさせる報告の一つでした。
 簡単に紹介します。

 同病院は許可病床数470床。
 平均在院日数11.8日、平均病床稼働率93.8%。7対1入院基本料を算定している病院です。
 看護師の平均年齢は35歳。
 年休取得率は74%。完全週休2日制で離職率は5.2%。新人だけについて見ると離職率は11.1%。
 平均勤続年数は16年6カ月です。
 いわゆる短時間勤務制度の利用者は13人。6歳未満の未就学児のいるスタッフは看護職員全体の26.8%に及んでいます。
 経営管理職から見ると、そもそも看護職員全体の離職率が5.2%と低く、それでいて未就学児を抱える看護職員が4分の1を占める事実に、日常的にしっかりした対策がされているのだろうと受け止められると思います。
 その下地の上で、なおかつ、次の問題が意識されざるを得なかった点にこそ注目する必要があるように思います。
 副院長によると同病院がWLBワークショップ事業に参加した理由は、大きく二つです。
 第1の理由は病院を客観的に評価し、働き続けられる職場にするためのヒントを得たいためであり、第2の理由は家庭と仕事を両立できるような環境作りを進めたいためです。
 また、具体的に次のような課題が浮かび上がっていたためです。
 「7対1看護になり看護師は増えた。しかし看護師の疲弊は変わらない。日勤の帰りはいつも遅い。なぜ?休暇制度の実態と、どのくらいの人がどの制度を利用しているか、スタッフの本音を聞きたい。」看護管理職の立場からは自院の看護師の働く現状をあらためて知りたかったということになります。

 では現状把握調査などから浮かび上がった問題は何でしょうか。
 師長職が視座勤務をしていること、未就学児を抱える看護職員が全体の26.8%を占めており、育児休業明け後日勤勤務を希望する職員が多い、また看護職員の平均年齢が下がる見通しであり、妊娠・分娩・育児に関する休暇・休業が増えそうだという見通しもつきます。
 つまり、月平均夜勤72時間基準の医師が困難になりかねないことを意味します。
 同時に三交代制の夜勤回数10回以上が46%、2交代制で夜勤回数6回以上が35.1%に及んでいること。52%の職員が前残業をしている実態があり、それは毎日30分恒常的に行われている実態も浮かび上がります。時間外勤務は申請上6.2時間であるものの、実際は平均14.8時間になるなどの実態も分かってきます。

 離職率が低いことから想像されたように、職員は上司を高く評価しています。
 しかも帰属意識も高いのですが、43%の職員が現在の働き方に満足していないことなどを踏まえた職場環境改善の取り組みが始まります。
 具体的アクションプランとして設定されたのは、個人の夜勤回数負担の軽減と夜勤72時間基準の維持など4つ。ここから正規職員の夜勤専従看護師制度の導入が、日勤勤務者の希望夜勤回数月4回以内などの調査を受けて実行に移されます。
 また、院内保育所の保育時間の関係から時差勤務や夜勤ができない事情が把握され、保育時間延長などの制度改善が事務局了解の下、実行に移されていきます。
 これだけでは「保育支援がやはりWLBではないか」と思われるかも知れません。
 そこで注目したいのは、時間外勤務の削減に向けた取り組みです。
 時間外勤務の理由の多くが情報収集にあることが明らかにされています。
 ここから時間内の情報収集ができるよう夜勤者、看護助手と協力し、少しずつ時間内情報収集が確保できてきていると報告されています。
 以上のことはWLBが育児支援という「狭い」対策を目的としたものではなく、かつ、また資金手当てを必要とするものでもないことを教えています。

 簡単に紹介しました。
 より詳細な報告などは6月10日号メディウェル通信クラヴィスで行う予定です。
 併せて参考としていただければ幸いです。